3.「チャレンジ型人事制度」の設計と運用
「組織」と「個人」両方のニーズからの視点を持つ
 前項で述べたように、「チャレンジ型人事制度」の意味には、「組織戦略に基づくニーズ」によるものと「個人の動機からのニーズ」によるものの両面がある。もちろん各社の事情によって制度を設定していくうえでの優先度・緊急度の違いはあるだろうが、制度のよりよい設計・運用のためには、その両方のニーズの視点を忘れてはならない。
  仮に、「個人のニーズ」からでしか「チャレンジ型人事制度」をとらえず、組織として必要のない人材を無理に登用したり、異動元の業務に過度な負担を強いてしまったとしたら、組織効率上のマイナスは非常に大きい。ひいては、会社全体の経営の悪化を招く結果も予想される。
 また、「組織戦略」としてしか考えず、その合理性からの判断のみに頼ってしまい個人への配慮を欠いてしまっては、結果として、活力のある組織の確立がままならないものになるであろう。
「チャンレジ」していく職場風土を創る
 「柔軟でスピーディーな組織戦略」を展開していく場合、それを受け入れることができる組織風土があるかどうかは重要なポイントである。つまり、「チャレンジしていこう」という気持ちを、社員が日常的に持ち続けることができているかである。
 組織戦略を進めていくうえでは、できるだけ多くの候補者をピックアップし、その中から最も適切な個人を選ぶことが合理的だが、それでは、一方で数多くの「チャレンジ失敗者」を生むことになる。これでは、「どうせチャレンジしてもうまくいかない」という評判を招き、ひいては「チャレンジしていこう」という気運を損ないかねない。
 そのような事態にならないためには、いくつかの運用上の工夫が必要である。各社の事例にも見られるように、「チャレンジ失敗者」を多く作らないために「年次や人事評価による足きりをする」ことで候補者を絞り込み、できるだけ成功の確率を高めたり、「現在所属する職場の上司に拒否権を持たせない」ことで抵抗をできるだけ排除しようとすることも有効な工夫である。
 一方、「チャレンジ失敗者」自身に対して配慮していくことも、非常に重要なポイントである。失敗したことが「悔い」として残るようでは、職場に与える影響は大きい。そのことを回避するために、「うまくいかなかった理由を明確に本人にフィードバックする」ことで本人の納得感を高め、再度のチャレンジを動機づけていくことは必要なプロセスであろう。
 また、「チャレンジしたことが本人以外には明らかにならないようにする」ためにも、本人と人事担当者や求人組織との間でのやり取りを直接行っていくように工夫することも必要であろう。その意味では、「チャレンジ型人事制度」の伸展が各社における「イントラネット環境の整備」によって促進されていることも見逃せない事実である。
人事部門が優良な「社内人材斡旋会社」として活躍
 以上のように、これら「チャレンジ型人事制度」を有効に運用していくうえで、担当セクションとしての人事部門は、求人を行う組織と求職する個人の両方に対して適切な機能を果たしていかなければならない。それは、ちょうど優良な「人材斡旋会社」の役割に似ている。
 人材斡旋会社は、求職者の登録を広く行い、登録者一人ひとりの人材としての力量を把握することを通して、それぞれに適した職務・職場を探し求める。また、一方で、各企業に働きかけて人材ニーズを引き出し、そのニーズにふさわしい人材を探す。そして、「組織と人材のベストマッチング」が斡旋会社の使命であり、組織と人材のどちらかにとって不満足であれば「いい仕事」とは言えないのである。
 また、優良な斡旋会社がそうであるように、「チャレンジ型人事制度」を推進する人事部門には、単に各組織の人材ニーズを聞いてまわるだけではなく、各組織の持つ現状の課題をとらえ、そこから新たな人材ニーズを発掘・形成していくだけの力量を求めたいところである。
 現在、「チャレンジ型人事制度」のうち「社内公募制度」が比較的普及しているのに対し、「社内FA制度」の導入例が少ない、もしくは導入していも実績数が上がらない理由はここにあると思われる。つまり、組織のニーズが顕在化しているものに対しては対処できるものの、各組織のなかに人材ニーズを発掘するだけの働きかけができていないのである。
 現状の各ライン組織の中には、組織・人事戦略を柔軟に展開していくことで経営成果を上げていこうとする観点を持った管理者が意外に少ない。これらに対し、人事部門として積極的に組織・人事戦略の推進を働きかけていくことは、前者の経営戦略上の課題からいっても非常に重要なポイントであろう。そうしていけば、「社内FA制度」もより活発に展開されるのではないだろうか。
今後は100%「チャンレジ型人事制度」に
各企業の導入事例を見ると、「チャレンジ型人事制度」は、今のところ「定期異動」や「計画的な人事ローテーション」を補完する程度にとどまっている様子である。この状況は、今後どのように展開していくのであろうか。
 今まで述べてきた視点から言えば、社員にはすべて「チャレンジ型」であることを期待したい。そのことから、やや思い切った予見をすれば、今後は「100%チャレンジ型人事制度になる」と言いたいところである。その意味では、人事部門による「計画的人事ローテーション」は必要なくなるということである。
 「そんなことでは、組織として立ち行かないではないか」という反論もおありかと思う。もちろん現状としてはそのとおりである。自ら意思表明した社員だけでは、人事はまかないきれない。しかし、そこにこそ人事部門が活躍する意味がある。つまり、組織・会社としての要員計画や人材ニーズをオープンにし、それを的確かつ魅力的に訴えていくことで、全社員の「チャレンジ」を引き出していくのである。人事部門は「社内人材斡旋会社」である。今の時代の働く個人側の意識の高さとイントラネットを代表する技術基盤の整備さえできていれば、そのような「(計画的な)チャレンジ」も十分に可能になるであろう。
 また、各職場の仕事の仕方・マネジメントの仕方そのものが、十分に「チャレンジ型」になることも期待したい。例えば職場の移動をすることなく、「自らの積極的な意思によって、現在の職場にとどまって今の仕事のチャレンジする」という状況を作ることができれば、これも「チャレンジ型人事制度」のひとつの形態として考えることができるのではないだろうか。
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