今の時代に求められている「自律型人材」とは具体的にはどのような人を指すのでしょうか。また、どのようにすれば「自律型人材」として仕事生活を送っていくことができるのでしょうか。21世紀の仕事人(しごとじん)として、まさにこれからを生きていく皆さんに、その背景と内容、そして、その実践のための心構え・ノウハウをご提供したいと考えます。
1.「自律型人材」とは
企業が求める人材像の変化を探る
   企業は「自律型人材」を求めている
 「現在は『自律型人材』が求められている時代だ」と言われることが多い。果たして、実態はどうであろうか。
 「求める人材像」の変化は、各種調査結果に見て取ることができる。図表1は、リクルートのHRD研究所が継続的に実施している「人材開発に関する調査」における「企業が求める人材像」の結果である。ここでは、19項目の「人材像」に対して、各企業のトップが「自社の求める人材像に当てはまる」と考えられる項目を7つまで回答しているが、1990年から1997年までの7年間で最も回答率が変化(増加)した項目は、「自律的に仕事をすすめられる人」であることがわかる(1990年22.7%→1997年43.8%、21.1ポイントの増加)。この項目に次ぐのが、「社外にも通用する高い専門性を持っている人(16.5ポイントの増加)」自らが問題形成し提案できる人(14.5ポイントの増加)」となる。「自ら問題形成」といった意味が、「自律」とオーバーラップすることを考えれば、「自ら課題形成し、自律的に仕事を進める」ことと「高い専門性を持っている」ことを、最近の「求める人材像」の特徴として挙げることができそうである。
図表1 企業が求める人材像の変化
  1997年 1995年 1993年 1990年
サンプル数 281 WB 629 833
目標に向かって意欲的に行動する人 79.7 77.8 80.6 65.4
自らが問題形成し提案できる人 64.4 66.2 60.6 49.9
状況の変化に柔軟に対応できる人 64.4 57.4 53.9 69.5
社外にも通用する高い専門性を持っている人 53.7 49.9 47.2 37.2
広い視点でものごとをとらえられる人 50.9 52.2 57.2 46.1
未知なものへのチャレンジ精神を持っている人 43.8 42.5 46.1 57.5
自立的に仕事をすすめられる人 43.8 32.1 27.8 22.7
上位者に対して自らの意思・戦略を明確に出せる人 38.4 38.4 40.5 43.0
個性豊かで独創性を発揮できる人 33.1 33.1 25.3 47.1
情報に対する感受性が高い人 31.3 33.8 29.6 46.5
事業家(起業家)マインドが高い人 26.3 19.5 20.2 30.9
与えられた課題を確実に遂行できる人 26.3 33.8 32.3 20.0
一分野にとらわれることなく多方面に精通している人 20.6 16.7 22.9 25.8
社内外に多くの人的ネットワークを持っている人 18.9 24.0 24.0 24.7
伝統や前例にとらわれない人 17.8 14.7 13.7 22.4
ものごとを論理的にとらえられる人 17.1 18.3 15.4 15.0
効率を重視する人 14.6 16.1 10.7 10.7
人間関係を大切にする人 13.2 18.8 22.4 19.3
一生懸命に仕事する人 11.4 14.6 12.6 11.6
単位:%
資料出所:リクルートHRD研究所「人材開発に関する調査」1990、1993、1995、1997
(注)WBとは、サンプルの構成比をそろえるために、ウェイトバックしていることを表わす
 また、1989年に経団連の創造的人材育成協議会(末松謙一会長)が発表した「各社事例」の中の「わが社の求める人材像」を見ても、『自律型人材』を想起させる文章記述は少なくない。42社中14社で、「主体性」(さくら銀行、日産自動車、他)、「自ら問題を発見・課題を形成」(新日本製鐵、ソニー、他)、「自ら考え、自ら行動」(アサヒビール、東レ、他)、「自立心」(オリックス、富士通、他)といった「自律性」を感じさせる言葉を見いだすことができ、多くの企業にとって「自律型」は「求める人材像」として、定着化してきていることがわかる。
 これらのことを総合的に解釈すると、どうやら現在の企業においては、「周囲から逐一指示・コントロールされることなく、自ら方向性を定め、目的意識と責任感を持ちながら仕事を進めていける」ような『自律型人材』が求められていることが分かる。
「自律型社員」が求められる背景 
   ナンバーワンからオンリーワンに企業の戦略が変化
 それでは、なぜ『自律型社員』が求められるようになってきたのであろうか。まずは、その社会的な背景を整理してみよう。
 この10年間における社会の変化を考えていくうえで、「国際化」と「IT(情報技術)革命」の二者を無視することはできない。そしてこれらは、市場に「消費者ニーズの多様化/変化のスピードアップ」という事態を生じさせるとともに、産業界を否応なしに「国際競争の時代」へと引っ張り込んだ。その細かい背景についての解説は、また別の機会に譲るとしても、これらのことは企業経営において、戦略の変更を迫ることとなった。具体的には、「大量生産・生産性競争(ナンバーワン企業)戦略時代」から「スピード競争・独自性価値(オンリーワン企業)戦略時代」への切り替えである。
 従来、企業が市場において優位性を保っていく上では、「他社よりも一円でも安い商品を生産していくこと」が非常に重要であった。そして、そのことを実現するために、スケールメリットを生かして大掛かりな設備投資による大量生産を行ってきた。また、そこで仕事をする人々も、いかに所定の手続きに従って、ムダなく効率的に仕事を進めていくかが求められた。全体で計画を立て、統制のとれた組織で、一人ひとりは余計なことは行わず、作業をできるだけ単純化・マニュアル化していくほうが、ずっと有利だったのである。
 しかし、市場のニーズが多様化し、変化もスピードアップしてくると、どうしてもそれに迅速に対応をしていかなければならない。また、国際競争も、この流れに拍車を掛けている。「他社よりも一円でも安いものを」といった戦略は、安価な外国人労働力の前にはむなしい努力となって消えてしまった。そこで、企業の生きる道として、他社と競争するのではなく、他社にない独自の価値を次々に世界に提供することが求められてきているのである。
 市場のニーズを把握し、すばやくビジネスへと展開していくためには、既存のやり方にこだわっていたら、十分な成果を出していくことはできない。また、経営トップの判断を待っていたら、チャンスはどんどん逃げていってしまう。仕事の最前線にいる人間が、柔軟性と機動力を持っていかに素早く判断し、行動していけるかが重要になってくるのである。つまり、「会社の命を待って動いていく人材」から「自分自身の意思によってタイムリーに判断し、行動していく人材」へと、求められるものが変化してきたのである。
  新しい時代の勤務形態に対応
 また、「IT革命」を中心とした技術の革新により、従来とは違った「多様な働き方」が可能になり、そのことがホワイトカラーの生産性を飛躍的に向上させたと同時に、「自律的」な仕事の進め方を迫る結果となっていることも、見逃せない事実である。
 従来は、情報の出入り口は一人の管理職である必要があった。そうでなければ情報の信頼性の面で不安があったからである。ただし、そのやり方では、情報伝達のスピードが遅くなりがちであるというデメリットがあり、そのことを補完するために、職場メンバーが一堂に会し、また同一の条件下で勤務するという「仕事の仕方」を生んだ。ところが、通信ネット等の高度機能化に伴い、情報の出入口は、いかようにでも設定することができるようになり、どこにいてもまた何人に対しても瞬時に同じ情報を双方向で伝えていくことが可能になった。そうなると、時間的・スペース的な無駄を一気に省いた勤務形態が可能になる。いわゆる「テレワーク」や「在宅勤務」等の形態である。そして、そのことで「短時間勤務」も可能になり、経営側としても、大勢の正社員を常に確保している必要はなくなり、優秀な人材を容易にかつテンポラリーに調達することもできるようになってきた。
 一方で、そのような勤務形態の変化は、時間的・スペース的・要員数的な生産性の向上をもたらしたと同時に、働く個々人に対して「自己責任の明確化」という変化ももたらした。つまり、今までのように、誰が判断し、誰が実行したかが連帯責任としてあいまいなままであるのではなく、個々人の成果としてはっきりしてくるようになったのである。ここでは、他人任せのいい加減な判断は許されない。まさに『自律的』に仕事を進めていくことがどうしても求められるのである。別の角度から言えば、『自律的』な仕事の仕方ができない人材は、これからの勤務形態の中では良い仕事をしていくことは難しいということである。
図表2 企業を取り巻く環境と組織・人事に対する考え方の変化
  以 前 現 在
市場の特徴 ・大量消費社会
・高度成長→バブル
・消費者ニーズの多様化
・国際化/IT革命
市場対応戦略 ・市場の普遍的な最大ニーズを探り、大ヒット商品を大量に提供(大量生産戦略) ・市場ニーズの多様化・複雑化に対応するサービスをスピーディーに提供
・国際的にも優位性を持つ商品を提供(価格性・機能性)
企業の求める優位性 ・他社より1円でも安い商品作り(国内ナンバーワン企業) ・他社にない価値の提供(オンリーワン企業)
適応した組織戦略 ・計画どおりに仕事を進め、スケールメリットを活かすことのできる統制のとれた組織
・ミス・ムダの少ない組織
・市場にスピード感を持って対応することができる、柔軟性と機動力を持った組織
・国際的にも通用する高い生産性を持った少数精鋭組織
・高い付加価値を生める組織
企業が求める人材像 ・人間関係を大切に、和を乱さない人材
・上司の指示・命令に従うことができる人材(従順で管理しやすい組織人)
・効率の向上を目指し、組織を機能的に管理することができる人材
・手続きを守ることで、成果を出していける人材
・高い専門性を持った人材
・会社の目指す方向に理解・共感し、そこから自分の考え・方向を明確に打ち出していける人材(自律的に仕事を進めていくことができる人材)
・手続きにこだわることなく、成果を追求していける人材
人材開発の基本方針 ・会社が育成の機会を与える、会社が最後まで面倒を見る ・自ら成長する
・自分自身がキャリアを形成
人材開発の方向 ・より大きな組織を統括していく人材として管理職の階段を上る(立身出世型人材開発) ・自分の志向・適性に応じて、個々に役割貢献レベルのアップを目指す(役割向上型人材開発)
個人と会社との関係 ・自分のキャリア生活のすべてを保証してくれるところ ・自分自身がキャリア開発していくうえでの機会を提供してくれるところ
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