(10)老齢年金の繰下げ
老齢基礎年金・老齢厚生年金は、希望すれば受給開始年齢を本来の開始年齢より遅い時期(66歳から75歳まで)に年金の受取りを開始することができます。この場合、一定の割合)で増額された年金を受取ることができます。
ただし、以下の点に留意が必要です。

・加給年金や振替加算は増額の対象になりません。また、繰下げ待機期間中は、加給年金や振替加算を受取ることはできません。
・65歳に達した時点で老齢年金の受給権がある場合、75際に達した月を過ぎて請求を行って増額率は増えません。増額された年金は、75歳までさかのぼって決定され支払われます(昭和27年4月1日以前に生まれた方は70歳に達した月まで)。
・65歳の誕生日の前日から66歳の誕生日の前日までの間に、障害給付や遺族給付を受け取る権利があるときは、繰下げ受給の請求ができません。ただし、障害基礎年金または旧国民年金法による障害年金のみ受取る権利のある方は、老齢厚生年金の繰下げ受給の請求ができます。
・繰下げ待機期間中に、他の公的年金の受給権が発生した場合は、その時点で増額率が固定されます。年金の請求の手続きを遅らせたとしても、増額率は増えません。増額された年金は、他の年金が発生した月の翌月分から受取ることができます。
・繰下げ受給を希望した場合でも、繰下げ請求の手続きをするまでの間に、受給権発生時点からの年金をさかのぼって一括して受取ることも可能です。令和5年4月からは、70歳に到達した日後に受給権発生時点からの年金をさかのぼって受取ることを選択した場合、請求の5年前の日時点で繰下げ申出したものとみなして増額した年金の5年間分を一括して受取ることができます(昭和27年4月2日以降生まれの方、または平成29年4月1日以降に受給権が発生した方が対象)。ただし、請求の5年前の日以前から障害年金や遺族年金の受給権がある場合は適用されません。また、過去分を一括して受取ることにより、過去にさかのぼって医療保険・介護保険の自己負担や保険料、税金に影響する場合があります。
・このほか、年金生活者支援給付金、医療保険・介護保険などの自己負担や保険料、税金に影響する場合があります。
○老齢基礎年金の繰下げ
老齢基礎年金の受給権を有する者であって、
66歳に達する前に年金の請求をしていなかったものは、支給繰下げの申出をすることができます(65歳以後に受給資格期間を満たした場合も可)。繰下げ支給は66歳から75歳(昭和27年4月1日以前生まれの方は70歳)になるまでの間に支給を請求することができます。
支給繰下げの申出を行った場合の老齢基礎年金の支給額は、繰下げをしなかった場合の老齢基礎年金の年金額に以下の額が加算されます。ただし、昭和16年4月2日以降生まれの方と、その前に生まれた方とでは計算方法が異なりますので、ご注意ください。
(昭和16年4月2日以降生まれの方)
 繰下げ加算額=老齢基礎年金の額×0.7%×繰下げ月数(最高120月まで)

(昭和16年4月1日以前生まれの方)
 繰下げ加算額=老齢年金の額×増額率

増額率
繰下げ期間 増額率
1年を超え2年に達するまで 0.12
2年を超え3年に達するまで 0.26
3年を超え4年に達するまで 0.43
4年を超え5年に達するまで 0.64
5年以上 0.88
○老齢厚生年金の繰下げ
老齢厚生年金の受給権を有する者であって、
受給権発生後1年を経過した時点で老齢厚生年金の請求をしていなかったものは、老齢厚生年金の支給繰下げの申出をすることができます。繰下げ支給は66歳から75歳(昭和27年4月1日以前生まれの方は70歳)になるまでの間に支給を請求することができます。ただし、平成19年4月1日前に老齢厚生年金の受給権を有している人は対象外です(昭和17年4月2日以後生まれの方が対象となります。昭和12年4月2日〜昭和17年4月1日生まれの方は、老齢厚生年金の繰下げはできません。また、昭和12年4月1日以前生まれの方は、老齢基礎年金と同時であれば、老齢厚生年金の繰下げをすることができます。この場合の増額率は、上記の老齢基礎年金の昭和16年4月1日以前生まれの方の場合と同一です)。
支給繰下げの申出を行った場合の老齢厚生年金の支給額は、繰下げをしなかった場合の老齢厚生年金の年金額に、繰下げ加算額を加算した額となります。
 繰下げ加算額=(繰下げ対象額+経過的加算額)×増額率
 増額率=0.7%×繰下げ月数(120月を上限とする)
繰下げを行うことができるのは、受給権発生後1年を経過した時点からですので、増額率は、8.4%(0.7%×12ヵ月)〜84%(0.7×120ヵ月)となります。
(例)68歳で繰下げ請求する場合

上記の例の通り、65歳以上で在職し、在職老齢厚生年金の対象となる方が繰下げを申し出た場合には、支給停止とならない部分についての金額が繰下げ対象額となります。したがって、給与額によっては対象額が小額となり、繰下げを行ったとしても年金額がそれほど増えない可能性もありますので、注意が必要です。
留意点
・老齢厚生年金の繰下げは、60歳台前半の老齢厚生年金を受給している場合でも、申出をすることができます。しかし、60歳台前半の老齢厚生年金そのものの支給繰下げを行うことはできません。
・老齢厚生年金の繰下げは、65歳に達したときに、老齢や退職を支給事由とする年金の受給権者であっても、申出をすることができます。また、障害基礎年金の受給権者であっても、申し出をすることができます。
・老齢厚生年金の繰下げは、老齢基礎年金の支給繰下げの申出と同時に行う必要はありません。つまり、老齢基礎年金を65歳から受給し老齢厚生年金は繰下げる、老齢基礎年金を繰下げ老齢厚生年金は65歳から受給する、老齢厚生年金・老齢基礎年金ともに繰下げる、のいずれの方法も可能です。
・厚生年金基金または企業年金連合会(基金等)から年金を受取っている方が、老齢厚生年金の繰下げを希望される場合は、基金等の年金もあわせて繰下げとなりますので、年金の支払元である基金等にご確認ください。

なお、これまでの説明のとおり、
老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに、支給開始を1年遅らせることで年金額は8.4%増額されるのですから、100%÷8.4%=11.9、つまり、支給を受けなかった1年分の年金額を回収するためには11年11ヵ月が必要になるということになります。66歳で繰下げ受給を開始したとすると、77歳11ヵ月になって、65歳から受給した場合との受け取り総額が同じになるのです。繰下げをする場合には、このことも考慮に入れておくと良いでしょう。
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